11月神楽坂矢来能楽堂公演 サクッとわかる能「かげきよ景清」ビギナー向け解説 鑑賞手引 ネタバレ有

  11月10日日曜日 12時半からの第一部の公演

来月に迫りました名曲能「景清」カゲキヨ。

上演時間は、景清は1時間20分かと思います。(能の前に仕舞三番15分少があります)

一幕物のセリフの多いわかりやすい作品なので、すっきりと見やすいです。歌舞伎や古典芸能の景清物の、能オリジナル作品。作者不詳。

人丸が父を探して旅をするのが、今で云うロールプレイングゲーム風の仕立てになっているのが、見ていて分かり易いです。

以下詳細なネタバレを含みますので、ご注意下さい。


登場キャラクター *能の世界観の中の設定)

景清 カゲキヨ  悪七兵衛景清 (シテという役ポジション。今でいう主役) 悪🟰強い 

源平合戦に生き残った平家方の最強の侍。四国屋島の義経軍との戦いでは、相手の兜を引きちぎる伝説の戦いをし、戦乱終結後も源頼朝の暗殺を狙い鎌倉に潜伏、遂に鎌倉軍に捕まるが、源氏の世の中は見たくないと、自ら両目を抉り盲目となった。

九州宮崎に流罪となり、今は土地の人の憐れみで施しを受け、なんとか生きながらえているが、もはや昔の屈強の面影はない。




人丸 ヒトマル   (ツレという役ポジション)

景清と尾張名古屋の熱田の遊女との間に出来た娘。鎌倉亀が江の谷の長に預けていたが、成長して、父に会いたいと、父を探して千キロも離れた宮崎へ旅してくる気丈な娘。

従者(トモという役ポジション)人丸の護衛のような存在で、鎌倉から共に旅してくるが、能では、その素性を明らかにしていない。

里人 サトビト(ワキという役ポジション)宮崎の里に住む男。景清の素性を知る里人。食料を与えたり生活の面倒も見ているようだ。

時代設定

源平の戦いも今は昔。鎌倉幕府が樹立し、景清の武勇も世の中から忘れ去られたある日。

場所

九州宮崎の景清の草庵の辺り


舞台進行

藁屋の設え

囃子方地謡方が舞台に登場し座してから、大道具の藁屋ワラヤを

舞台に出す。舞台が景清のいる宮崎の地であることを表すが、

その舞台セットを背景にして、画面を重ね合わせるように鎌倉から旅する人丸一行の道行を描くことから、能は始まる。

ポイント!  作り物という大道具だが、竹を組み、藁の屋根を乗せ、しっかりした建て付けなので、粗末には見えないが、それを景清の住む粗末な住処に見立てる。作り物は、その都度演者で組み立てる物。能の大道具は、始まってから出すのが普通の演出。

なぜでしょう? 

旅路

成長した景清の娘、人丸は父に一目会いたいと九州へと旅立つ。

ポイント!  一千キロに及ぶ長い旅も、「道行」ミチユキ と呼ぶ旅路の歌で、役者はあちこち動き回らずに、ひっと飛びに宮崎に着く。能ならではの省略技法。舞台転換の演出。

景清の独白

自ら盲目となり、着替えさえままならず、痩せ衰えてなんとか生きているような状態だと独白する冒頭の場面。

この能の雰囲気を決める重要なセリフ謡い。「松門ひとり閉じて」と歌い出すセリフなので、「松門の謡い」と言われることもある。

ポイント!  セリフに強吟ツヨギン・弱吟ヨワギンという声の出し方や音調の違うメロディを交錯させながら歌う節が伝承されている。この謡曲を習う人にとっては習得が大変難しい音曲の場面であるために、景清は難しいと言われるが、変化に富んだ台詞廻しが景清独特の魅力になっている。是非聴いていただきたい。

しかもこの場面。景清は姿を見せず、声だけを聞かせる演出になっている。必聴の場面。通な人は、ここを聴くために来るという場面なので、スマホは絶対絶対鳴らしてはいけない。

すれ違う親子

人丸一行が、宮崎に着き景清を探して回る。草の庵を見つけ、景清とは気が付かずに、「景清という人を探しています。知りませんか?」と尋ねるが、景清は「名前は知っている。酷い暮らしをしてると聞いたことがあるが、自分は目が見えないので、わからない」と嘘をついて、人丸達をやり過ごす。

ポイント!  人丸達は、その草を編んだ粗末な住処を乞食の住んでいるところだと、こんなところに景清は住んでいないと最初から勘違いをしました。能では、藁屋(わらや)という作り物(大道具)を使い、そんなに粗末には見えないですが、それをひどく粗末な住処と見立てて見るのです。

景清はすぐに娘と気づいて、咄嗟に嘘をつきます。落ちぶれた自分を娘に知られたくなかったのですね。しかも他人に預けて手放した娘ですから尚更です。

里人と人丸の出会い

人丸達は近くの里を訪ね、里人に景清の行方を尋ねる。

そこで先ほどの乞食の男が、実は景清だと教えられて驚く。

ポイント!  人丸は、先ほどの変わり果てた男が景清と知って、涙します。

能では、シオリという片手を目に当てる所作で、泣くことを表現しますが、声をあげて泣くことはしません。しかし、時に深い悲しみの表現にもなります。

里人と景清

里人は、娘に変わり果て姿を見せたくなかったのだろうと察し、自分がとりなしてやろうと景清の元にやってきます。

景清は、今は昔の名前を捨て、自ら日向の匂当(ひうがのこうとう・盲人の官職名)と名乗っていたので、昔の名前の景清と呼ばれて癇癪を起こします。

ポイント!  かつての誇り高き武人も、今は里人がいなければ生きていけないので、景清は、つい癇癪を起こしては、里人に許しを乞うのです。そこに悲哀があります。

娘との再会

里人に促され、ついに父に声を掛けすがる人丸。

景清も、娘の思いにほだされて、娘に詫びるのでした。

ポイント!  娘の思いが通じ、ついに心素直に打ち解ける親子。この場面でもシオリの所作で落涙。

とても良い場面を盛り上げる謡曲も聴きどころです。

クライマックス!名勝負の戦さ語り

娘の所望で、源平合戦の伝説の名場面、屋島合戦の錣引き(しころびき。兜の襟元の部分を引きちぎった剛力話)を語りはじめる景清。景清に昔の力が蘇って来るようであった。

ポイント!  いよいよクライマックス。能では、主人公の「語り」が挿入される事がありますが、これが語り芸の聴かせどころ聴きどころになっています。それに地謡が加わり、所作も加わって見応えのあるカッコいい場面に仕上がっています。今回、大きく動き回る立ち舞はせずにやる予定なので、グググッと抑制された所作に凝縮して勤めたいと思います。

自分で言うのもアレですが、シブくてカッコいい型なのですねこれが。

別れ

語りおえた景清は、自分はもう長くは生きれないだろうから、国に帰って弔ってくれと、娘との最後の別れをします。

そして、娘、人丸は、父の声を心に残し、鎌倉へと旅立つのでした。

ポイント!  最後に杖をつきますが、盲人用の少し、長い細杖で、コツコツと独特の静かな音が聴こえます。


景清は、よくお客様から終わった後の拍手のタイミングを聞かれる曲ですが、是非、橋がかりの杖を聴いていただいて、幕に入ってからされる方が、いいでしょうね。お願いは出来ませんが。(決まりではありませんので。その時の会場の雰囲気もありますけど)


以上、とーっても良い曲なんで、是非、ご覧いただけたらと思います。

チケットは観世九皐会ホームページをご覧ください。



詳しい全文翻訳は、the能ドットコムさんの演目辞典の項目から景清の現代語訳がわかりやすいです。


*今回、the能ドットコムにある、景清の写真の扮装や型と演じ方が違います。それも見どころです。床几なし、大口も履かずの予定。より台本の景清像に近い舞台演出、伝承の型でいたす所存です。乞うご期待!

ご来場お待ちしています。



このブログの人気の投稿

能楽記事アーカイブ