能楽夜ばなしⅡ 2025 1月19日更新 忠度
能楽夜ばなしⅡ
当日中森貫太さんの解説があるので、私からは一言だけおはなしを。(ネタバレありますので、観能後に読んでも良いかも)
この曲の題材は、高校生の古文にも出てくる平家物語の「忠度都落」
そして「忠度最後」
なのでここはサッとYouTubeなので、受験生向けの平家物語古文解説動画でさらっておくと、より楽しめます。
忠度は修羅物ジャンルだけど、修羅の苦しみはテーマではなくて、和歌をこよなく愛した忠度の歌に対する想いが主眼の、風雅な能になっています。
忠度の和歌の思いについては原作の平家物語「忠度都落」の方が詳しく描かれてますが、能作者(世阿弥)は、平家物語の読者前提に作っているだろうと思います。
能らしいと思うのは、舞台には全く大道具、小道具のセットとしても現れない桜。
ストーリー
今の神戸須磨区一の谷あたりを通りかかった西国行脚の旅の僧。
この人は、平忠度の和歌の師匠、千載集を編纂した藤原俊成 (しゅんぜい、としなり)の身内の人。俊成が亡くなり出家して西国に旅に出て、須磨にやってくる。
須磨といえば、能では、松風の行平(わくらはに問う人あらば須磨の浦に 藻塩たれつつ侘ぶと答えよ 古今集)や須磨源氏の光源氏が流された都から見れば鄙びた寂しいところです。そしてかつて源平の戦では、一の谷の戦いの主戦場となり、多くの武者が散ってゆきました。
季節は春で、山陰に桜が咲き、その一つの桜の木の下には、一の谷の戦いで戦死した忠度の塚もある。
この桜の木の下で、ストーリーが進行するのだけど、能では、この桜の木は観客の想像力に委ねて舞台には花の作り物を出さない。
そこがこの曲のポイントでもあるのかな。
そこへ、山人と思しき老人が通りかかる。
この老人、潮汲みの仕事をしているが、塩を焼くために山に薪をとりに通っている。そして、その通い道に忠度の塚があるので、手向の花を手向ける。
ここでも手向の花は持たない(通常は持たずに木の葉で演じる)
現代劇ならば、大きな桜の木のセット、そして主人公は桜の小枝を持って現れるだろうけど、逆に花は持たない。
旅僧に一夜の宿を乞われた老人は、この桜の木の下ほどの宿はあるまいと言う。そして。
行き暮れて 木の下陰を宿とせば
花や今宵の あるじならまし
と、忠度の和歌を詠う。(忠度最後に描かれている、岡部六弥太が討ち取った武者の死骸にあった短冊付きの矢に書かれた和歌。それで相手が忠度だとわかって、皆、涙で袖を濡らした)
この老人こそ、忠度の霊が化身した姿で、俊成の身内の僧侶が訪れたので老人の姿となって現れたのだった。
そして、この桜の木の下に寝て、夢の告げを待てと言って消え失せる。
後半は、旅僧の夢に、ありし日の公達姿の忠度が現れ、死後に俊成によって千載集に選ばれたが、戦に負け、朝敵となり作者の名前は消されて、読み人知らずなった事が1番の妄執だと語り、旅僧に、俊成の息子の定家に名前を入れてくれと頼んで欲しいと懇願する。
ささなみや 志賀の都はあれにしを
昔ながらの 山桜かな
(読み人知らずとされた千載集に選ばれたこの歌は、この能では直接歌われない。)
やがて、忠度の都落ちの下り(俊成に和歌を託しに戻った場面。わずかですが出てきます)
そして忠度最後に描かれた、自らの死に様、岡部六弥太忠澄との戦いの様を舞って、旅僧に回向を頼んで、桜の花の元に消え帰る。
果たしてそれは、旅僧の見た夢だったのか、幻だったのか。
あとには桜の木だけが残る。
という風情豊かな能ですけど、実際の花は最後まで小道具として出てこないので、花はお客様の心の中に見てね。というおはなし。
能は想像、空想の芸術だといわれるけど、この曲も描かれない行間・余白が多い。
それがこの曲の魅力でもあり、自分なりに想像してご覧いただけたらと思います。
稽古をしていると、自然と桜の木が見えてくるわけですけど、そういう目に見えない物が、お客様と共有出来たらいいなあと思う舞台です。
どうぞお楽しみください。
なお、お陰様でその日は満席と主催者にうかがいました。
誠にありがとうございます。
当日お天気だといいですね。よろしくお願いします。
ps. 若い頃、埼玉県県深谷市の渋沢栄一さんの生家で稽古をしていたのですが、その頃、地元の方に岡部の史跡に連れていっていただきました。
熊谷次郎直実とか、実盛とか能に出てくる坂東武者達の史跡が近くに今も残っていて、とっても身近に感じられたものでした。敦盛を舞うと思い出します。また旅に出たいです。
1月4日更新
今年も矢来能楽堂の新春公演から、一年がスタートしました。
喜正師シテの船弁慶。前売完売の幸先の良いスタートでした。
舞台出演こそされませんでしたが、喜之師匠が楽屋で皆を見守って下さり、何十年と変わらぬ始まりでした。
はや、稽古に舞台と、また忙しい一年が始まりますが、今年も元気に勤めたいと思います。どうぞ宜しくお願いします申し上げます。
1月2日更新
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。
暮から掃除や稽古をしながら、穏やかに新年を迎えました。
松飾を作ったり、稽古場の壁飾りや忠度の矢を作ったり、リラックス出来てよかったです。
一月も忠度のシテや催しも結構ありますので、しっかり勤めたいと思います。
本日は、下記放送にも出演しています。地謡に参加させていただきました。
是非ご覧下さい。
令和7年1月2日(木)
13:45 ~ 14:45
NHK教育テレビ(Eテレ)